講師として登壇した女装パフォーマーのブルボンヌさん

 女装パフォーマーのブルボンヌさんによる鶴見区人権啓発講演会が、12月7日、鶴見公会堂で行われ、区内外から訪れた約270人が耳を傾けた。

 講演会は、人権啓発を目的に鶴見区が毎年講師を招き実施しているもの。

 今年は、男性同性愛者であるゲイを公言し、ラジオやテレビ番組などでも活躍する女装パフォーマーでライターのブルボンヌさんが講師として登壇した。

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 今年度のテーマは「LGBT」(※)。「男らしさ、女らしさ、自分らしさが社会を変える〜LGBT・男性・女性とは〜」とタイトルがつけられた。

 講演に先立ち、主催者としてあいさつした渋谷治雄鶴見区長は、横浜市による市民意識調査で今年初めて性の多様性の項目が設けられたことに触れつつ、「人権とは生まれながらに誰もが持つ権利。今日の講演が考えるきっかけになればと思う。そういう意味でブルボンヌさんは今最もふさわしい方」と呼びかけた。

客席におり、来場者とハイタッチするなどファンサービス

華やかな登場シーンから自己紹介

 舞台に登場するとすぐ客席におりたブルボンヌさん。

 笑顔で手を振りながら華やかなパフォーマンスを演出。一気に会場の心をつかむと、スライドを織り交ぜて自己紹介からスタートした。

 「自分では自然の振る舞いが、周囲には女の子っぽく映っていたようで、『オトコオンナ』と呼ばれていた」と話したのは小学生時代。他人との違いを認識した瞬間だったと明かした。

 思春期が始まる中学時代には初恋を経験。恋愛対象は男性で、「言ったら嫌われると内に秘めた」と少数者としての苦い思い出を振り返った。

 高校時代は剣道部の主将を思い続けたというエピソードを披露。

 「卒業直前、夕暮れ時に告白した」と赤裸々に語りながら、「帰宅してすぐ彼から電話があって、『びっくりしたけど、好いてもらえるのは嬉しい』って言われたの」と話し、異性愛者にもかかわらず否定せず優しく受け止めてくれたことへの喜びと感謝を口にしていた。

自身の歴史を振り返り自己紹介

人それぞれの性 時代とともに複雑に

 講演中、眠くならないようにと会場に質問する場面も。問いかけたのは「オネエってなに?」という質問だった。

 メディアでブームになった「オネエタレント」の一人として世に出たというブルボンヌさん。

 「体は男だけど、気持ちが女の人」などという会場の答えをもとに、「オネエ」と呼ばれる有名人たちの写真を示しながら、「装い」「体」「戸籍」「性の対象」など属性は人それぞれだということを解説した。

 男性の装いで女性の振る舞いの人、体自体も女性の人、男性のままの人…簡単にひとくくりにはできない複雑なもので、最近では「オネエ」と呼ばれるのは人によっては不快感があるものになっていると指摘。

 「当たり前に使われた言葉ひとつとっても複雑で、時代とともに印象も変わっていっている」とした。

ともにメディアを賑わせたという有名人らを紹介

社会的・文化的につくられた性差「ジェンダー」

 「そもそも性はどこでわけているのか」と投げかけたパートでは、一般的に男性的、女性的とされる「差」について、一つずつ紐解きながら説明。

 「がっしり」「華奢」「胸がある」などの肉体は、「華奢な男性もいれば、胸のない女性もいる」などと個人差があるものとし、生まれつき両性の特徴を持つ少数者もいると紹介した。

 装いについても、「デパートに行けば男性服、女性服があり、女は会社でノーメイクNGとされる」といった一般的な差を示しつつ、「男らしく、女らしくは世の中にあふれているが、社会の側がわけてきたもの」と、社会的・文化的につくられた性差を指す「ジェンダー」に言及した。

会場に質問を投げかける場面も

性の形と性的指向で作る成分表

 「ここまでは『自分の性の形』についての話。性差にはもう一つ、性的指向がある」と切り出したブルボンヌさん。

 男性に向くか、女性に向くか、誰にも向かないか――性的指向も含めどこで分けているかを一つずつ分解して考えていると、その人の性にまつわる成分表が出来上がるとして、作成した自身の表を明示。

 「ミニカーとリカちゃんが目の前にあったら迷わずリカちゃんを手にした子どもだったが、パソコンを組み立てるなど機械に強かった」と話し、社会的に見て男性的、女性的と言われる両方を持っていたなどとして個人差を説いた。

女装前後の写真を載せた自身の「成分表」を説明

性は他人が決めつけられるものではない

 「LGBT」のほかにも、クエスチョニング(不定)のQなどを加えた「LGBTQ」として、さまざまな性にまつわる少数者がいることを説明したブルボンヌさんは、「当事者である私でも、『それってどっち?』と驚くことがある」と明かした。

 その上で、「人って、自分の理解できる器に入らないと『それはおかしい』と思いがち。だが、特に『性』はその人の独特な考えがあり、もともとグラデーションがあるものだから、他人が決めつけられるものではないのかなと思う」と熱を込めた。

講演中に示された解説スライド

一人ずつ違う性的視点「SOGI」にも言及

 終盤に差し掛かった講演会について、「LGBTと聞くと、実態を知るにはいいが、『普通の私と普通のオレが、特別なLGBTの人の話を聞く』という、当事者たちをすごい違う人間としてとらえる側面がある」と意見。

 「でも、性は人それぞれ。皆さん一人ひとりがオリジナルの成分表を持っていると思って。女性でもパンツスタイルだけ、花柄ばかりという人もいて、その人たちはざっくり女性としてまとめられているけども、世の中が思う男性的、女性的としてはわかれている」と語り、一人ひとりの性的視点であるSOGI(ソジ)についても言及した。

 SOGIはSexual Orientation and Gender Identityの略。Sexual Orientation=性的指向と、Gender Identity=性自認という意味。

 Gender Expression=性別表現を加えたSOGIEも紹介し、「私は普通、あなたはLGBTではなく、誰もがそれぞれ性にまつわる話を持っているよねという目線で語れる言葉」と伝えた。

熱い思いを語るブルボンヌさん

「無意識の偏見」 知識を取り入れ解消を

 さまざまな調査結果をもとに、国内のLGBTQ当事者がおよそ10%であるとし、割合は左利きやAB型と同じと紹介。

 「人生でAB型の人と会ったことないって人いないでしょ?実際は黙っている。深刻ないじめの原因や出世に影響したり、当事者たちはどのライフステージでも言うと不都合がある社会と感じている」と現状を憂いた。

 さらに、国連が定める持続可能な開発目標である「SDGs」にも触れ、ゴールの一つである社会的・文化的性差別を無くそうという「ジェンダー平等」で、日本は世界でも最低ランクの評価であることも解説。

 iPhoneで知られるアップルのCEO・ティム・クック氏がゲイであることを公表する一方、国内では不適切発言で政治家が炎上するなど、世界と日本の違いを語りながら、「人にはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があるが、まつわる知識、時代の流れをしっかり取り入れれば、今をつかんだ話ができるはず」と話した。

この数字を前にして、当事者に初めて会ったという問いかけに多くの人が手を挙げたが、「学校や町内会、当たり前に隠れている」と指摘された

「自己肯定感」低い若者に共感とエール

 性差など個人差について話す自身の講演の目的について、日本の若者の自己肯定感の低さを改善させたいからだと説明。

 欧米などと比べ、日本の若者の自己肯定感が半分ほどの低さであるという内閣府の調査結果を示し、「自分で自分を肯定しないから他者と比較する、承認欲求が強くなり、いかに他者に否定されないかという選択になる」などとマイナス面を主張。

 「私も含め、世界中の性的少数者は、人と違うと否定され、自己肯定感を高く持てなかった人が多い」と共感した上で、「でも、まずは生まれついたものとして自分を愛してあげることが大事」として、性的少数者が世界中で実施しているプライド・パレードに触れ、「多様性と自己肯定感は、私たちが大事だとうたってきたものだが、これからの若者たちにも大切なメッセージになる」と訴えた。

自身の体験をもとに、自己肯定感を高めたいとメッセージを送った

自分への愛 あふれた先に…

 「自分を愛せなくてどうして他人を愛せるの?」――世界一の称号をもつ伝説のドラッグクイーン(女装家)として知られるアメリカ人・ルポールさんの言葉を紹介したブルボンヌさん。

 「性は、心から転じた『りっしんべん』に生きると書く。それに向き合えないのは心を殺して生きることと同じ。向き合ってのびのびと自分の魅力を発揮できれば武器になる」

 「今、世界でダントツの高齢国である日本だからこそ、若者たちを変な物差しではかるのではなく、その人の一番の魅力を発揮できるように育ててあげることが、とっても意味のあること」

 「まずは自分のことを十分に愛して、たまった愛を他人に配って」などと来場者に思いあふれるメッセージを届けた。

講演後、会場の質問に答えた

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【解説】※LGBT

L=レズビアン(女性同性愛者)、G=ゲイ(男性同性愛者)、B=バイセクシュアル(両性愛者)、T=トランスジェンダー(生まれたときの性別と性自認が異なるなどの人)など、性的少数者の総称。

現在は前述の4種類以外にもアセクシュアル(性的欲求や恋愛感情をもたない人)、パンセクシュアル(全性愛者)など、さまざまな人がいることから、クエスチョニング(不定)やクイア(枠外)という意味を加えた「LGBTQ」、さらに「LGBTQ+」という表現が使われることが多くなっている。


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