今日の「鶴見な人」vol.5<br />木村 郁子さん

商店街に魅せられて
縁で積む体験をつなぐ

木村 郁子さんきむら   いくこ 鶴見区内在住 39歳

 レアールつくの商店街に拠点を置き、まちづくりを得意とする合同会社ふくわらいの代表。鶴見区内マルシェの先駆け的存在となる「つくのつくるのマルシェ」のほか、軒先ショップなどで“まち”を応援する日々。「昔からなぜか惹かれる」という商店街に居場所を作り、原体験の真っ最中だ。

実体験であふれる“愛”

 「商店街に惹かれるんですよね」。まっすぐにそう言う。

 昔ながらのアーケードが残る商店街として、TVドラマや映画、CMなどのロケ地としても知られる「レアールつくの商店街」。

 その中ほど、シェアオフィスとレンタルスペース機能をあわせた拠点「START BASE Q」(スタートベースキュー)を昨年春から運営する。

 「人と人との付き合いの中でモノが売れていく」「地域のつながりが希薄になってきていると言われているが、ちゃんと生活様式が残っていたり」という良さ。

 「ただ売っているだけでなくて、コミュニティを生み出している」。実体験の先に芽生えた“愛”を語る。

レトロな雰囲気の残るアーケードが特徴のレアールつくの商店街

鶴見で知った地域活動の楽しさ

 レアールつくの商店街に深くかかわるようになったのは2013年のこと。

 鶴見区の友好交流都市である福島県棚倉町や西会津町などの特産品を扱うアンテナショップで、レアールにオープンした「kura-cafe」(クラカフェ)の店長に就いたことがきっかけだった。

 もともと大学卒業後、2009年に横浜市に入庁。初任地となった鶴見区役所。

 「地域振興課の職員として多文化共生などに携わり、ディープな部分も楽しみました」

 面白さを感じた地域とのかかわり。古いアーケードの残るレアールつくの商店街を初めて見たときは「レトロな雰囲気に驚いた」と振り返る。

 もっと地域で動きたいと、2013年に横浜市を退職したあと、当時住んでいた南区の弘明寺商店街でコミュニティスペース作りを目標に活動を開始した。

 動き出す中で、区役所時代に友好交流都市との人事交流で一緒に働いていた棚倉町の職員から声がかかり、東日本大震災の風評被害を払しょくさせる手伝いに至る。

 そして2013年、横浜市による商店街空き店舗活用事業を使い、レアール内にkura-cafeがオープン。店長として雇われ、商店街に身を置いた。

過去を振り返りながら、思いを語る木村さん

縁たぐり、思い形に起業

 客からの差し入れ、何気ない世間話、他人なのに近い距離感が新鮮だった。

 「商店街自体がコミュニティ」。心地よさを感じ、ますます好きになった。

 そんな矢先、2017年3月に運営会社の都合でkura-cafeが閉店。現地への交流ツアーや生産者を鶴見に招くイベントなど、参加する福島県の2町も手応えを感じる中でのことだった。

 志半ばの出来事。つながり、つなげてきた縁。募る思いを胸に、合同会社ふくわらいを立ち上げた。

 閉店から4カ月後、同年7月から、「たなぐらマルシェ」と銘打ち、特産品を販売するイベントを実施。「マルシェと言っても、ふくわらい1ブースだけでしたけど」。

 自虐的に笑うが、それが現在の「つくのつくるのマルシェ」の前身だ。

 コロナ禍での休止などはあったものの、だんだんと輪を広げ、月に一度、多くのブースが集う場になっている。

恒例になりつつある月に一度の「つくのつくるのマルシェ」の様子。木村さん(左手前)も出会いを楽しみながら運営している

こだわった「つくのに拠点」

 「つくのでどうしても探したかった」

 拠点を持たずに続けたマルシェ。商店街内に事務所を構えるのはハードルが高いと、小野町の自宅を事務所にしていたが、もっと活動を深めたかった。

 「知り合いの不動産屋さんに、家賃6万円のところと無理を言って。相場的に長くかかるだろうと思っていたら頼んで3カ月で空いちゃって」

 2021年3月のこと。事業内容は未定だったが、逃したら無いと思い飛び込んだ。

 「心理的に入りづらいお店だった」。長年見ているからこそわかる店舗の変遷。軒先を貸し出すレンタルスペースと、シェアオフィスの形態で拠点を構えた。

無頓着から好きに変わった「食」への興味

 軒先レンタルも、平日を含め稼働率は上がっている。

 4社でシェアしていたオフィスは、引っ越しなどを理由にここで2社減ってしまうが、新たな仲間を募っている最中だ。

 「いるだけで色んな人と出会える。職場があるのは大事ですね」。そう言って笑う。

 夢はたくさんあるが、今は各地の美味しいものの紹介に情熱を注ぐ。プロジェクト名は「福笑いの食卓」。

 これまでつながってきた福島県の特産品だけでなく、たくさんの自治体の“いいモノ”を届けていくつもりだ。

 「実は食べることも料理も苦手だったんですよ」。食への無頓着を変えたのは、美味しいものや生産者との出会い。思いに触れ、体感して変わった。

 「今では食べることが楽しいし、大好き。体験で変わることを伝えたい」

30年後など、まちの行く末を考えることも好きという木村さん

原体験は現在進行系

 文章を書くのが好きで、毎日15分、書く瞑想でリフレッシュする。

 「自問自答を繰り返しています。最近思うのは、それが出来ることが、続けていくコツなのかなって」

 ずっと、なぜか惹かれている商店街。 小さいころアーケードの下で育ったとか、親戚が商いを営むわけでもない。

 原体験はない代わりに、今まさに体験中。軒先に立ち、一つずつ好きな理由を積み重ねていく。(了)

【合同会社ふくわらい】…イベントやマルシェの企画・運営、地方自治体のプロモーション活動などを行う

■住所 横浜市鶴見区佃野町24−33 スペースQ ■連絡先 naka@29warai.com  080−8845−9878(木村さん)

■ホームページ https://29warai.com  ■SNS    Facebook    Instagram


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